2021年3月某日。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全生徒が集まっての卒業式は中止になってしまった。そのかわり、少しでも学生生活最後の思い出作りができるようにと、校舎内を謎解きしながら巡ることができるイベントが開催されることになった。
多くの卒業生が集中することを避けるため、日程は3日間用意されていて、どこか1日に参加することができる。もちろん友達と一緒に巡ることもできるが、マスクは必須。また大人数のグループになる場合は、複数のチームに分けられる。

今年の卒業生である私は、友達2人と待ち合わせて、一緒に校舎の正面玄関に入った。
「協力して解くことは大切だけど、密にならない場所で相談してね。掲示物は写真に撮って大丈夫だから」
誘導係の先生が、参加者ひとりひとりの手にアルコールスプレーを噴射しながら、感染対策の徹底を呼びかけている。校舎の窓は開放され、密閉空間にならないようになっていた。謎を解くために必要な「キット」は受付でもらえたが、筆記用具は自前のものを持ってくるよう言われていた。また、スマートフォンの持参が必須だった。(※実際のイベントでは、オンライン環境不要のバージョンもご用意していますが、スムーズな運営および対面での解答提出の機会を減らすため、端末を使用する運営を推奨しています)

Web上に「解答入力ページ」が用意されているらしく、解けた謎の答えを入力することによって、正誤判定ができるらしい。ヒントも同じWebページに用意されているそうだ。
スマートフォンを持っていない場合は、持っている友達とチームを組むか、それができない場合は、情報処理室にあるPCやタブレットを使うことも許可されていた。
体温計測で問題がなかったので、私たち3人は校舎の奥に通された。

「十分に思い出を噛み締めながら、巡ってくるんだよ」
先生の声を背中に受けながら廊下を進む。そうか、この景色を見るのも今日が最後なのだ。

キットはB4サイズ1枚の簡素なものだった。左半分に、感染対策に十分注意してプレイすることの注意書きと、「まずはこのWebページに進んでください」と書かれたQRコードが載っている。右半分はメモ欄だ。

私はスマートフォンのカメラを立ち上げ、QRコードを読み込んだ。